第22回日本時間生物学会の開催にあたって
第22回日本時間生物学会学術大会を2015年11月21日(土)~22日(日)の2日間、東京大学 伊藤国際学術センター・福武ホールにおいて開催させていただくことになりました。
日本時間生物学会は、1994年、臨床および基礎生物学としての概日時計研究者を中心として設立され、現在この分野における中心的な学会として国内外より高く評価されております。
睡眠覚醒をはじめとして、体内の多くの生理活性が24時間の周期性をもって活性変動を示します。この概日時計の存在は、外部の光環境と体内の時刻情報に齟齬を生じる状態、例えば「時差ぼけ」の際に身近に感じられるものです。しかしながら、近年、文字通りの24時間社会の到来を受け、現代社会に生きる私達は多かれ少なかれ、体内の時刻と環境の時刻のバランスが取りづらい状況にあります。シフトワーカーはもとより、子供たちでさえもスマートフォン等の画面を通した深夜の光刺激がもたらす、睡眠の質の低下が問題視されています。睡眠の質の低下は、うつ病をはじめとする精神疾患の原因となりえます。これは概日時計を起因とする問題であり、本学会は基礎研究と臨床応用をつなぐ場としても重要な役割を果たしています。
一方で、基礎研究としての生物リズムは、生物物理学、数理生物学といったより理論的な研究の興味深い題材であり続けています。これまでに多くの生物種で概日時計を生み出すために必須の役割を果たす遺伝子・タンパク質が発見されていますが、それらがどのようにして正確な24時間という時間長を刻むのかは、いまだ明らかではありません。原子・分子レベルで生命における時間の流れの実態を明らかにすることは、それ自体極めて興味深い研究であるとともに、概日時計動作原理の深い理解ひいては、その制御を可能とする画期的な創薬の基盤となるはずです。
本学術大会では「生命における時間を再定義する」と題し、私たちの身体が備える24時間周期のリズム性を現在の最新の知見を元に再検証し、より厳密かつ制御可能な形で捉えなすこと、さらには社会環境のリズム性やその破綻、あるいは潮の満ち引きのリズムなど、研究室内環境では再現しにくい環境の周期的変動をも取り込んだ研究にも焦点を当て、数理から分子、社会環境まで通貫する議論が行われます。本学術大会が時間生物学の更なる発展、ご参加頂く皆様の飛躍の一助となることを願ってやみません。
第22回日本時間生物学会学術集会
会長 上田 泰己
(東京大学大学院医学系研究科 教授)
(理化学研究所生命システム研究センター グループディレクター)